幸運のマッキンリー
アラスカ添乗中の話です。
マッキンリー登頂中に消息不明になった冒険家・植村直己さんに絡めて、ヨーロッパ自転車旅の話をバスの中でしていたら、
「中村さんて、本当に運が良い方よね。これまでの人生でラッキーなことがたくさん起きて」とお客さんに言われました。
「どんな出来事でも前向きに捉えていれば、きっと何が起きても結果として『運が良い』ことになるんですよ笑」
ぼくがドライバーに道を伝え間違えたのは、そう言ったすぐ後のことでした。
アラスカには、北米大陸最高峰のマッキンリー山(標高6194m)があります。雲に隠れることが多く、なかなか山頂を見るのは難しいと言われています。実際、今日も山は隠れていました。
しかし、奇跡が起きました。ぼくがドライバーに目的地を伝え間違えたがために、本来走るはずのなかった道を進んでいました。約30kmもです笑
そしたらそこに、山脈が一望できるすごい絶景ポイントがあったので、「ドライバーさん!ちょっとここで写真ストップ取ってよ!」とお願いして、みんなに降りてもらいました。
そこからは、マッキンリーをはっきり見ることができました。お客さんも、まさか見れることはないと諦めていたので、感動していました。威容を感じ、素晴らしい時間でした。
しかし、そこで初めて自分が道を間違えていたことに気付き、来た道を引き返すことになりました。
「皆さん、本当に申し訳ございません。私がドライバーさんにレストランの場所を伝え間違えてしまい、到着が予定より遅れてしまいそうです」
と謝ったところ、後ろの方にいたお客さんが大声で言ってくださいました。
「中村さんのおかげで、マッキンリーが見えたよ。こんな運が良いことないね」
そしてみんな笑顔で、口を揃えて「本当にラッキーだった」って言ってくれて、肩をなでおろしました。
「なんだ、皆さんも運が良い性格の持ち主じゃないですか笑」
「なんでも前向きに捉えなきゃね。中村さんを見習うよ」
ぼくは改めてラッキーな男だと思いました。
レストランに向かう途中、どこまでも続く黄葉の並木道が、まるでシスレーの絵画のように美しかった。