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旅人をつなぐ箱

「旅人をつなぐ箱」

文=鎌田智子(サクラホステル浅草・支配人)

 

サクラホステル浅草には、「フリーアイテムボックス」と書かれた箱がある。日本語に訳せば「無料の物の箱」。雑誌やテレビの取材が来るたびに、「これは何ですか?」と不思議そうに聞かれる箱なのだが、中には何が入っているのだろう。

これは旅人たちが、次に来る旅人のために置いていきたい物を何でも入れてよい箱だ。一番喜ばれるのはシャンプーやボディソープ。使いかけで構わない。ホステルに泊まる機会があったら気を付けていただきたいのだが、大半のホステルにはシャンプーや歯ブラシ等のアメニティは置いていない。持参するのが当たり前という世界なのだ。私たちのゲストも自分のシャンプーを持ってきたり、近くのスーパーで買ったりするが、1本のシャンプーを旅の間に使い切れないこともある。

余ったシャンプーは荷物になるから持って帰るのは嫌だし、捨てるのももったいない。そんな時に例えば、タイ人のゲストがある朝、使いかけのシャンプーをこの箱に入れて国に帰っていく。午後にチェックインしてきたオランダ人が、それを箱からもらって使う。こうやって循環していく。旅人たちの「もったいない精神」が、会うことのない次の旅人の役に立つ。そんな箱だ。

さて、この箱にはいろいろなものが入っている。シャンプーだって各国の製品が入っているので、全く読めない言葉が書かれていてシャンプーなのかコンディショナーなのか分からなかったりすることもある。歯磨き粉や折り畳み傘に本、裁縫道具、もらいすぎたうちわやティッシュ等々、さまざまなものが日々入れられ数日のうちになくなっている。捨てる神あれば拾う神あり。何のルールも書いていないただの箱だが、皆その意味を理解して日々活用してくれている。

意外な使い方もある。私たちのホステルには、相撲協会歌舞伎座のスタッフさんたちが何枚もポスターを送ってくれる。お相撲さんや歌舞伎役者が写った素敵なポスターなのだが、ホステルにはポスターを何枚も貼るほどスペースはない。余ったポスターをどうしようか、と思った時にこの「フリーアイテムボックス」が登場する。相撲や歌舞伎のポスターなどこの箱に入れれば、数時間後にはなくなっている。格好のお土産として、持っていかれるわけだ。

せっかく送ってくれた方には意図と違う結果になって申し訳ないが、地球の裏側の誰かの家で何年も何年も日本の思い出として飾られたら、それも素敵なことではないだろうか。いただき過ぎてしまったカレンダーなども、日本の風景が描かれていたり漢字が書いてあったりして素敵なお土産になるので、この方法でホステルから異国の地へと運ばれている。

地球環境のためなどではなく、ただ面白いと思って登場したこの箱。知らない旅人の要らない何かが他の旅人の役に立つ。異国同士の人や物が一瞬交わってパッと散っていく、ホステルとはそういう場所である。

『週刊トラベルジャーナル』2014年1月6日・13日号「ビジネスパーソンの日々雑感」より